「蜀素帖」または「擬古詩帖」とも称される作品は米フツによる墨跡の絹本で、
行書で書かれています。
縦29.7センチメートル、横284.3センチメートルの大きさで、
北宋の哲宗元祐三年（1088年）に制作されました。

「蜀素」とは北宋時代に四川地方で作られた質の高い絹織物で、
烏絲欄（ウーシーラン、黒い絹の線網模様）が織り込まれ制作が非常に精巧でした。
この「蜀素帖」は烏絲欄の内側に書かれていますが制約されることなく自由な気勢で、
洗練された筆使いで書かれています。
筆勢が自由に飛び交い提げたり押したりして転換して多彩な表現を尽くしています。
「擬古」の最初の2首はやや拘束された感じがありますが後半に進むほど自由で
解放的な筆致となり神髄が超絶しています。
米フツは「八面出锋（八方から鋭く出る筆致）」を好んで使い変化に富んだ筆使いを見せます。
この作品は筆致が多様で正面、側面、隠れた部分、露出した部分、線の長さや太さが様々であり、
無限の姿を持つ彼の「刷字（書くことを刷るように迅速に行うこと）」という
独自のスタイルを充分に表現しています。
また蜀素の表面が粗いため彼は全力を注いで書き董其昌は「蜀素帖」の後書きで
「この巻はまるでライオンが象に襲いかかるように全力を込めて挑むもので、
彼の一生の傑作と言えるでしょう」と評しました。

さらに絹織物は墨を吸収しにくく枯れた筆を多く使っているため全体的に墨の濃淡があり、
渇いた馬が泉を求めるように一層見応えがあり魅力的な作品となっています。